電子顕微鏡はストレスに対する細胞応答を可視化できる①

1.研究の概要とキーワード

 作物は外界からさまざまの刺激ストレスを受けて生存しています。低温、乾燥、塩、紫外線といった物理ストレス、農薬や毒物などの化学ストレス、カビ、細菌、ウイルスといった病害ストレスがこれにあたります。病害ストレスをうけた作物は色々な防衛応答を行いますが、過剰ストレスに対抗できない場合は死滅し、克服した時は生存できます。ミクロ世界での病原菌で生じる機能分子を特定することがなにより重要です。
本研究は、エネルギーフィルター電子顕微鏡(元素分析電顕の1種)を用いて機能分子を可視化して、解析した防衛応答をもとに作物の増収を図ることを目的としています。
 

2.他の研究との相違点・新規な点

 病原菌の侵攻を受けた植物の応答を研究した例は数多くあります。その研究の殆どが純形態学的調査でした。感染に対する細胞の防衛反応を構造変化として電顕観察することには限界があることから、純粋な超微形態だけでは応答反応は解析できません。感染反応に内在する機能を司る物質分子の同定が不可欠となり、この機能分子をミクロレベルで可視化できることが次世代細胞学の目標となると考えられます。
 そこで、本研究では、植物の感染場面で、侵攻する側の病原菌に焦点を合わせ、侵入菌糸に生じる活性酸素を電顕下で可視化して、この物質をエネルギーフィルター電子顕微鏡を使って同定しました。電顕形態学は、感染による反応部位を特定して菌側の病原性に関る重要な機能分子を解析できる唯一の方法です。
  

3.内容

 二十世紀ナシには天敵がいます。ナシ黒斑病菌というカビです。このカビは二十世紀ナシだけを攻撃しますが、他の栽培ナシ(長十郎ナシ)を犯しません。この原因はこの菌が生産するAK毒素にあると言われています。

 極めて薄い毒素液を二十世紀ナシに接触させると、壊死が生じるが、他のナシ品種は全くの無害です。この菌が栄養を求めてナシ組織に侵入する前に、毒素は菌から分泌され二十世紀ナシの細胞膜の一部が破壊されます。毒素により生理的に弱った細胞は難なく菌の侵入をうけて病気になります。一方、病気にならない長十郎ナシでは毒素は効果を発揮しないため、菌の侵入は植物の抵抗により阻止されます。

 菌はナシ葉に侵入する時、特殊な攻撃器官(貫穿菌糸)をつくり、ドリルのように組織を穿って組織内に入るのですが、その時、物理的圧力を与える貫穿菌糸には活性酸素(過酸化水素)が生じます。この過酸化水素はビタミンCを与えると消えてなくなり、過酸化水素の無くなった貫穿菌糸はもはやナシ組織に侵入できなくなり、病気にはなりません。この過酸化水素はエネルギーフィルター電子顕微鏡を使うことによ今後の雑種第二代以降の造成に期待がもてる」(実験用小型ブタの開発、実験用小型ブタ導入・性能調査事業報告書、平成12年3月、(社)日本実験動物協会、50頁)との高い評価を得ました。りと検出でき、感染の反応部位を可視化できるのです。


4.研究の適用分野

 我々の研究は植物保護の分野にあたるもので、研究成果は直ちに作物増収に貢献することはありません。しかし、病害防除といった応用につながる研究には多くの基礎研究の成果があってこそ病害防除に貢献できます。「何故、作物は病気になるのか?」 「何故、病原菌は病気を引き起こすことができるのか?」「何故、多くの植物は病気にならないのか?」といった疑問に答える基礎研究が何より大事になります。我々の研究はその疑問に答える研究を行っています。                


研究者  朴 杓允
神戸大学自然科学研究科
神戸大学連携創造本部より

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